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前橋家庭裁判所桐生支部 昭和38年(少)1120号 決定

少年 A(昭二三・二・二三生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収してある金やすり一個(昭和三八押第一二号の五)金鋸一個(同号の七)は没取する。

押収してある明治ハイミルクチョコレート六個(同号の三)同一個(同号の一六)同一二個入一箱(同号の二二)同空箱(同号の二三、二四、二五)は被害者岡○源○に、赤色ビニール手提鞄一個(同号の一二)は被害者柳○盛○に、ベンベルグネッカチーフ一枚(同号の一四)は被害者(不明)に各還付する。

理由

(非行事実)

少年は

第一、昭和三八年○月○日頃の午後一一時頃故なく群馬県勢多郡○○村大字△△△○○番地須○和○方にT外二名と共に侵入し、

第二、同年△月○○日頃の午後一一時頃故なく右同所○○○○番地鏑○善○方にTと共に侵入し、

第三、Tと共謀の上同年同月○△日頃の午後五時頃右同所○○○○番地所在の西瓜畑において鏑○啓所有の西瓜五個を窃取し、

第四、右同日午後一〇時半頃故なく右同所○○○○番地金○福○方にTと共に侵入し、

第五、同年同月○○日頃の午後八時頃住職太○隆○が看守する右同所○○○○番地竜○寺境内○○堂にTと共に故なく侵入し、

第六、同年同月○○日午前一一時一五分頃右竜○寺東方の畑内において大間々警察署司法巡査森尻昆男がTに対する当裁判所の発した同行状を執行しようとした際同巡査の背後より同巡査に抱きつきTを逃走させ、以て公務の執行を妨害し、

第七、同年同月△△日頃の午前一一時半頃前記○○△△△番地坂○製材店材木置場においてTが他から窃取してきたものであることを知りながら握り飯・みそ漬・ソーセージ・羊羮を受取り収受し、

第八、同年同月△△日午後四時半頃群馬県山田郡○○町大字○○△△△△番地○○用水土地改良区事務所付近路上において大間々警察署司法巡査野口優がTに対する当裁判所の発した同行状を執行しようとした際同巡査の背後より同巡査に抱きつき引つぱりTを逃走させようとし、以て公務の執行を妨害し、

第九、同年○月○日中等少年院送致決定を受け引続き前橋少年鑑別所に収容中のTを逃走させようと企て、同月△日午前二時頃及び同月○日午前零時頃前橋市岩神町所在の右前橋少年鑑別所南側の高さ三メートルの石塀に付近にあつたはしごを立てかけて乗り越え構内に侵入し、単独室に収容中のTに予ねて購入した金やすり三個(昭和三八年押第一二〇号の五はその内の一個)金鋸五本(右同号の七はその内の一個)を手交し、同月○日午前二時頃Tをしてこれを使用して直径約一・五センチメートルの窓鉄枠を切断して逃走させ、以て人の看守する前記鑑別所に侵入すると共に法令に因り拘禁せらている者の逃走を容易ならしめ、

第一〇、Tと共謀の上同年同月○○日午前三時頃前記○○町大字○○△△△番地青果物商八百○こと広○ミ○方において同人所有のソーセージ罐詰を窃取し、

第一一、Tと共謀の上右同日午後六時頃日光市○○町○○○番地鞄店柳○盛方において同人所有の赤色ビニール手提鞄一個(時価一、一〇〇円相当昭和三八年押第一二〇号の一二)を窃取し、

第一二、Tと共謀の上同年同月○△日午前零時半頃栃木県今市市○○町○○○番地並○そば屋前路上において小○博所有の小型乗用兼貨物自動車セドリック一台(時価約四〇万円相当)を窃取し、

第一三、Tと共謀の上同年同月○○日午前二時頃前橋市○○町○○○番地付近において岩○定○所有の小型乗用兼貨物自動車セドリック一台(時価約四五万円相当)を窃取し、

第一四、Tと共謀の上右同日午前三時頃伊勢崎市○町○○番地岡○菓子店倉庫において岡○源○所有の明治ハイミルクチョコレート一二枚入八箱(昭和三八年押第一二〇号の三、二二ないし二五はその一部)を窃取し、

第一五、Tと共謀上同年同月○○日午前一〇時半頃山形県米沢市大字○○字○○通称○○付近の山道において樋○正○所有の第二種原動機付自転車一台(時価約五万円相当)を窃取し、

第一六、Tと共謀の上右同日午後三時頃米沢市○町○○○○番地○屋商店々舗において山○佐○所有の婦人用手袋二、靴下カバー黒バンド各一を窃取し、

第一七、Tと共謀の上右同日午後四時頃米沢市○○町○○○○番地の一所在十○屋において代表者植○久管理の靴下二、革手袋一を窃取し、

第一八、Tと共謀の上右同日午後八時頃米沢市○町○○○○番地鞄店「バ○店」において鈴○喜○所有の革バンド一本を窃取し

たものである。

第一、二、四、五及び第九の内侵入の点 住居侵入 刑法第一三〇条罰金等臨時措置法第三条(共犯につき更に刑法第六〇条)

第三、一〇ないし一八 窃盗 刑法第二三五条第六〇条

第六、八公務執行妨害 刑法第九五条第一項

第七  賍物収受 刑法第二五六条第一項

第九の内逃走援助の点 刑法第一〇〇条第一項

送致事実中昭和三八年○月○○日米沢市○○○町○○○○○番地○屋洋品店においてカネボーオペラリップ・クリーム・マニキュア等を窃取したとの点については証明が充分でない。

(処遇理由)

少年の父は昭和三三年に死亡し少年は現在農業をしている母兄と生活を共にしているが、昭和三七年夏中学三年生の頃兄から服装が派手だといつて強く叱られ衣服を焼かれたことに反抗して急激に素行不良になり、I、Y等不良学生と肉体関係を結ぶに至り、昭和三八年四月○○高等学校に進学したけれども素行修まらず、遂に同年五月に退校し、その頃共犯者Tと相識り肉体関係を結ぶようになつたが、七月初旬補導委託先を逃げ出したTと放浪の生活をはじめ第一ないし第五の非行を犯していたが、Tが同行状を執行されそうになつた際には無分別にも第六、第八の非行を敢行し、九月上旬には警察において本件につき取調を受け充分訓戒されているに拘らず、更には大胆にも第九のような法を無視する犯罪を犯した末、以後Tと行を共にし非行を累ねながら逃避して米沢に到つたものである。

宇都宮少年鑑別所の鑑別結果によれば、知能程度は普通であるが、性格に問題がある。即ち、情緒面で抑鬱的で欲求不満が蓄積され易く、自己中心的で素直でなく強情で反省心に欠けている上、前記のような家庭に安住できず愛情を求めて非行に陥り、特にTとの急激な肉体関係ある恋情にそのはけ口を見出し、Tと共に虞犯傾向を益々深めていつたものと思料せられる。

審判においてもTのどこに魅力を見出したのか答えることはできなかつたが、将来はTと結婚したいと述べており、その結びつきは鞏固であるので収容すると却つて恋情を昇華させ抽象的に理想化して固着させる虞はあるけれども、幸い知能程度は普通級に属するので、この点に思いを致しつつ善導すれば、これまでの非行を反省させ惰性から脱却させて、そのかたくなな粘着的性質を矯正することも可能であると考える。

よつて少年法第二四条第一項第三号少年審判規則第三七条第一項少年院法第二条第三項を適用して中等少年院に送致し、押収してある主文掲記の金やすり金鋸は第九の犯行の供用物件であるので少年法第二四条の二第一項第二号第二項但書により没取し、その他の主文掲記の押収物件については少年法第一五条刑事訴訟法第三四七条第一項を適用して被害者に還付し主文のとおり決定する。

(裁判官 松沢博夫)

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